. |
結局、朝が来ても決心がつかないまま、ベットから起き上がる。今日もまったく寝ていない。 MTBでいつもの交差点を過ぎるが、紗奈ちゃんの姿はない。 教室に入ると、誰とも目をあわせないように席につく。 「うぉい、あすまぁ、今日もご機嫌ななめか?」 「まあな。」 そっけなく答える。 「ちょっと結城、どうしたの?」 のぞみがやってくる。 「昨日から様子がおかしいけど、なにがあったのよ?」 「なんでもない。頭が痛いだけ。」 「ならいいけど……ほんとに頭が痛いだけなの?」 「ああ。……その、つらいから、ほっといてくれないか?」 「あっ、ごめん……」 すまなそうな顔でのぞみは黙り込む。 ………………………… ……………… …… 昼休みが来るとおれはすぐに教室を出る。 昼休みといっても、今日はなにも食べる物を用意していない。 一人になれる場所を探し、非常階段の立ち入り禁止の鎖を乗り越える。 2階の踊り場で横になると、ぼんやりと空を見上げる。 流れる雲を眺めていると、階段を上る足音が聞こえる。 (誰だ?こんなところに?) おれは上半身を起こして音の方向を見る。 階段の折り返しから現れたのは…………一夜だ。 近づいて来た一夜は、おれの胸にカバンを押し付ける。 「お前、帰れ。今日は。」 「どういうことだ?」 「いいから帰れ。今のままじゃ人を傷つけるだけだ。」 一夜の言葉が胸に痛い。 「そうか…………そうだな。」 おれはカバンを受けとる。 「……じゃあ、職員室に行くよ。」 「その必要はない。のぞみが話に行ったからな。」 「そうか……すまない。」 「謝るならのぞみに謝まれよ。あの態度はないって。」 「ああ。そうする。」 そう言うとおれは立ち上がる。 「なあ一夜。」 「あんだ?」 「なんでここがわかったんだ?」 「だから、おれはESP保持者だっちゅうに。」 「そうか……じゃあ、おれが今悩んでいることもわかるのか?」 「おれは……そんな野暮じゃない。」 一夜が肩をすくめながら答える。 「野暮?」 「ああ、おれは人の悩みをほじくるほど野暮じゃない。お前が話したくなったら話せ。」 「そうか。」 「わかったらもう行け、しっしっ。」 そう言うと、だらりとたらした手で人を追う仕草をする。 「行って思いっきり沈んで来い。」 「わかった。」 おれは一夜の横を通ると階段を降りかける。 「そうだ、あすまぁ。」 おれは後ろを振り返る。 「携帯は近くに置いとくからよ。なんかあったら電話しろ。」 「ああ。」 おれはそう言うと走ってその場を後にする。留まっていたら、泣いてしまいそうだったから。 ………………………… ……………… …… 家に帰ると驚くかーさんを置いて部屋に閉じこもる。 一夜には、よほど打ち明けようと思ったが、風霧のことを同じ学校の人間に話すわけにはいかない。 あのことを知っているのは紗奈ちゃんと静流さんだけ。でも2人にも話すわけにはいかない。おれが悩んでいることを知ったら、2人とも罪の意識を抱くだろうから。 (そうだよな。結局、おれのせいなんだから、自分で解決しないと……) そうはわかっていても、誰にも相談できないこの状況がつらい。 色々考えながら横になっていると、この2日間の睡眠不足からか、徐々にまぶたが重くなってくる。 ………………………… ……………… …… |
![]() |