7月6日(火)


. 結局、朝が来ても決心がつかないまま、ベットから起き上がる。今日もまったく寝ていない。

MTBでいつもの交差点を過ぎるが、紗奈ちゃんの姿はない。

教室に入ると、誰とも目をあわせないように席につく。

「うぉい、あすまぁ、今日もご機嫌ななめか?」

「まあな。」

そっけなく答える。

「ちょっと結城、どうしたの?」

のぞみがやってくる。

「昨日から様子がおかしいけど、なにがあったのよ?」

「なんでもない。頭が痛いだけ。」

「ならいいけど……ほんとに頭が痛いだけなの?」

「ああ。……その、つらいから、ほっといてくれないか?」

「あっ、ごめん……」

すまなそうな顔でのぞみは黙り込む。


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………………

……


昼休みが来るとおれはすぐに教室を出る。

昼休みといっても、今日はなにも食べる物を用意していない。

一人になれる場所を探し、非常階段の立ち入り禁止の鎖を乗り越える。

2階の踊り場で横になると、ぼんやりと空を見上げる。

流れる雲を眺めていると、階段を上る足音が聞こえる。

(誰だ?こんなところに?)

おれは上半身を起こして音の方向を見る。

階段の折り返しから現れたのは…………一夜だ。

近づいて来た一夜は、おれの胸にカバンを押し付ける。

「お前、帰れ。今日は。」

「どういうことだ?」

「いいから帰れ。今のままじゃ人を傷つけるだけだ。」

一夜の言葉が胸に痛い。

「そうか…………そうだな。」

おれはカバンを受けとる。

「……じゃあ、職員室に行くよ。」

「その必要はない。のぞみが話に行ったからな。」

「そうか……すまない。」

「謝るならのぞみに謝まれよ。あの態度はないって。」

「ああ。そうする。」

そう言うとおれは立ち上がる。

「なあ一夜。」

「あんだ?」

「なんでここがわかったんだ?」

「だから、おれはESP保持者だっちゅうに。」

「そうか……じゃあ、おれが今悩んでいることもわかるのか?」

「おれは……そんな野暮じゃない。」

一夜が肩をすくめながら答える。

「野暮?」

「ああ、おれは人の悩みをほじくるほど野暮じゃない。お前が話したくなったら話せ。」

「そうか。」

「わかったらもう行け、しっしっ。」

そう言うと、だらりとたらした手で人を追う仕草をする。

「行って思いっきり沈んで来い。」

「わかった。」

おれは一夜の横を通ると階段を降りかける。

「そうだ、あすまぁ。」

おれは後ろを振り返る。

「携帯は近くに置いとくからよ。なんかあったら電話しろ。」

「ああ。」

おれはそう言うと走ってその場を後にする。留まっていたら、泣いてしまいそうだったから。


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………………

……


家に帰ると驚くかーさんを置いて部屋に閉じこもる。

一夜には、よほど打ち明けようと思ったが、風霧のことを同じ学校の人間に話すわけにはいかない。

あのことを知っているのは紗奈ちゃんと静流さんだけ。でも2人にも話すわけにはいかない。おれが悩んでいることを知ったら、2人とも罪の意識を抱くだろうから。

(そうだよな。結局、おれのせいなんだから、自分で解決しないと……)

そうはわかっていても、誰にも相談できないこの状況がつらい。

色々考えながら横になっていると、この2日間の睡眠不足からか、徐々にまぶたが重くなってくる。


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