7月5日(月)


. おれは、重い心のまま、いつもの道をいつものようにMTBで降りていく。

いつもの交差点に紗奈ちゃんの姿が見える。

「せんぱーい。」

紗奈ちゃんの声が聞こえる。

「あ、おはよう……」

おれは紗奈ちゃんの顔を見ずに答える。

「先輩、どうしたんですか?顔色が悪いですよ。」

「あ、うん。なんでもない。」

「そうですか?」

(紗奈ちゃんもあの場にいたんだよな……)

おれは無言で歩き出す。

「あの、先輩。」

紗奈ちゃんの声に顔を上げる。

「なに?」

「大丈夫ですか?」

「うん。」

そう答えるとおれはまた歩き出す。

「先輩!」

紗奈ちゃんの声に振り向くと、心配そうな顔がそこにある。

「本当に大丈夫ですか?」

「あ、うん。実は昨日からちょっと頭が痛いんだ。」

おれはとっさに嘘をつく。

「そうなんですか。あの、頭痛のお薬なら持ってますけど、飲みますか?」

おれは首を横に振る。

「しばらくすれば治ると思うから。」

その後、無言で歩き、学校に到着する。紗奈ちゃんと別れ、教室に入る。風霧はもう来ている。

こちらに気づいた風霧と目が合い、おれは慌てて顔をそむける。

「おー、来たか、遊馬。」

一夜の声が聞こえる。

「ああ。」

おれは席に着く。

一夜は怪訝な顔でおれを見ているが、それ以上声をかけてこない。


…………………………

………………

……


休み時間になる。

風霧はおれの方を気にしているが、様子がおかしいので、話しかけようかどうか迷っているみたいだ。

おれはただ窓の外を眺め、まとまらない思考の中をさまよう。


…………………………


昼休みになり、教室を後にする。

一人になりたいが、紗奈ちゃんの教室に向かう。

空いた教室で一緒にお昼を食べるが、会話が続かない。

せっかく作ってくれたご飯の味もわからない。

「あの、先輩。保健室に行った方がいいんじゃないですか?」

保健室という言葉が心をつらぬく。

「いや、おれ、保健室は好きじゃないし。」

にべもなくなく断るおれに、紗奈ちゃんが悲しそうな顔をする。

ご飯を食べ終わると、会話もそこそこに別れる。


…………………………


放課後。

意を決した風霧が近づいてくる。

「結城、今日は来るのか?」

「あ、ごめん。今日は頭が痛くて……」

「そうか……大丈夫か?」

「うん。」

おれはそう答えると急いでカバンをつかみ教室を後にする。


…………………………


家に着くと、携帯を取り出して紗奈ちゃんに電話をかける。

「紗奈ちゃん?」

「はい。」

「明日休むかもしれないから……朝と昼のことは気にしないで欲しいと思って。」

「大丈夫ですか?先輩。」

「うん。」

「あの、先輩……」

「…………」

「あの……日曜日、風霧先輩となにかあったんですか?」

「……いや、なにもないよ。だから気にしないで。」

(そう……日曜日はなにもなかったんだ……)

おれは電話を切ると、携帯の電源を落としてベットに転がる。

自分でもなにをしたいのかわからない。風霧と話をしたい気もするし、そうでない気もする。風霧にすべてを打ち明けた方がいいような気もするし、そうでない気もする。一秒ごとに心が変わるようで、どうすればいいのかわからない。


…………………………

………………

……




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