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おれは、重い心のまま、いつもの道をいつものようにMTBで降りていく。 いつもの交差点に紗奈ちゃんの姿が見える。 「せんぱーい。」 紗奈ちゃんの声が聞こえる。 「あ、おはよう……」 おれは紗奈ちゃんの顔を見ずに答える。 「先輩、どうしたんですか?顔色が悪いですよ。」 「あ、うん。なんでもない。」 「そうですか?」 (紗奈ちゃんもあの場にいたんだよな……) おれは無言で歩き出す。 「あの、先輩。」 紗奈ちゃんの声に顔を上げる。 「なに?」 「大丈夫ですか?」 「うん。」 そう答えるとおれはまた歩き出す。 「先輩!」 紗奈ちゃんの声に振り向くと、心配そうな顔がそこにある。 「本当に大丈夫ですか?」 「あ、うん。実は昨日からちょっと頭が痛いんだ。」 おれはとっさに嘘をつく。 「そうなんですか。あの、頭痛のお薬なら持ってますけど、飲みますか?」 おれは首を横に振る。 「しばらくすれば治ると思うから。」 その後、無言で歩き、学校に到着する。紗奈ちゃんと別れ、教室に入る。風霧はもう来ている。 こちらに気づいた風霧と目が合い、おれは慌てて顔をそむける。 「おー、来たか、遊馬。」 一夜の声が聞こえる。 「ああ。」 おれは席に着く。 一夜は怪訝な顔でおれを見ているが、それ以上声をかけてこない。 ………………………… ……………… …… 休み時間になる。 風霧はおれの方を気にしているが、様子がおかしいので、話しかけようかどうか迷っているみたいだ。 おれはただ窓の外を眺め、まとまらない思考の中をさまよう。 ………………………… 昼休みになり、教室を後にする。 一人になりたいが、紗奈ちゃんの教室に向かう。 空いた教室で一緒にお昼を食べるが、会話が続かない。 せっかく作ってくれたご飯の味もわからない。 「あの、先輩。保健室に行った方がいいんじゃないですか?」 保健室という言葉が心をつらぬく。 「いや、おれ、保健室は好きじゃないし。」 にべもなくなく断るおれに、紗奈ちゃんが悲しそうな顔をする。 ご飯を食べ終わると、会話もそこそこに別れる。 ………………………… 放課後。 意を決した風霧が近づいてくる。 「結城、今日は来るのか?」 「あ、ごめん。今日は頭が痛くて……」 「そうか……大丈夫か?」 「うん。」 おれはそう答えると急いでカバンをつかみ教室を後にする。 ………………………… 家に着くと、携帯を取り出して紗奈ちゃんに電話をかける。 「紗奈ちゃん?」 「はい。」 「明日休むかもしれないから……朝と昼のことは気にしないで欲しいと思って。」 「大丈夫ですか?先輩。」 「うん。」 「あの、先輩……」 「…………」 「あの……日曜日、風霧先輩となにかあったんですか?」 「……いや、なにもないよ。だから気にしないで。」 (そう……日曜日はなにもなかったんだ……) おれは電話を切ると、携帯の電源を落としてベットに転がる。 自分でもなにをしたいのかわからない。風霧と話をしたい気もするし、そうでない気もする。風霧にすべてを打ち明けた方がいいような気もするし、そうでない気もする。一秒ごとに心が変わるようで、どうすればいいのかわからない。 ………………………… ……………… …… |
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