6月28日(月)

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   ピピピピピッ……

   ピピピピピッ……ピピピピピッ……


今日もいつもの音で目を覚ます。

(あーあ。また学校か…………)

ごそごそと起き出して顔を洗い、制服に袖を通す。パンを一枚くわえると、いつものようにMDのイヤホンをつけ、MTBに飛び乗る。

(うーん。いい天気だ。)

すらすらと自転車をこいで街を駆け抜ける。

「せんぱーい。」

いつもの交差点に紗奈ちゃんの笑顔が見える。

「おはよう。」

「今日もいい天気ですね。」

「そうだね。」

そう言いながらおれは自転車を降りる。ここからは、学校まで紗奈ちゃんと一緒に歩いていく。

「先輩、昨日は大丈夫でした?」

「なにが?」

「あの、昨日は久しぶりに先輩が来てくれたんで、はりきって料理をつくり過ぎちゃって……」

「ああ、全然大丈夫。それに美味しかったから。」

「そうですか?」

紗奈ちゃんが、ちょっと照れたような笑顔を見せる。

「でも、食べ過ぎたんじゃないですか?」

「ちょっとね。」

「ちょっとですか。」

「うん。でも、最近はよく食べてるわりに動いてないから、少し運動でもしようかとは思うけど。」

「部活に入るんですか?」

「いや、そういうわけじゃないけど。好きな時に行けて、好きな時に運動できるような場所があればいいと思って。部活ってがらじゃないし。」

「ふふ。先輩らしいですね。」

「そうかな。」

そんな会話を続けながら学校に到着する。教室への廊下を歩いていると、その先に数人の執行部員に囲まれた静流さんがいる。

「あっ、おねえちゃん。」

「どうしたんだろ?なにか真剣に話をしてるみたいだけど。」

近づいていくと静流さんの声が聞こえる。

「で、どうして山口先生に断られたの?」

「えっと、音楽室は学校行事の記録編集のために使っているので、空けるわけにはいかないと言われました。」

「どういうこと?」

「あの、山口先生は、学校行事を編集したビデオや冊子をつくる係を担当しているらしいんです。それで、そのために音楽室を使わなければならないらしいんです。」

「それを休み時間にやってるわけ?」

「はい。本来は休むべき時間を潰して学校のための作業をやっているのだから、クレームを受ける筋合いはないと言われまして……」

「ちょっと、それはおかしいんじゃない?映像の編集だったら、メディアルームでも視聴覚室でもできるでしょ?それをわざわざ音楽室でやる意味はないと思わない?」

「はい。我々もそう言ったのですが、音楽室の機材に慣れているし、一番綺麗に仕上げられるから、それも学校のためだと言われました。」

「それで、諦めたの?」

「は、はい。先生にそう言われるとそれ以上返す言葉がなくて……」

「そう……」

静流さんはちょっと考え込んでから、再び口を開く。

「でもね、それは本末転倒なんじゃないかな。編集は他でもできるけど、音楽の練習は音楽室でしかできないでしょ?音楽室はそのためにあるんだから、映像編集のためにそこを占領するっていうのはおかしいんじゃない?」

「それは……そうです。」

「ね、だからもう一度山口先生の所に行ってくれる?音楽室は音楽のためにあるんだから、練習をしたいと思っている生徒のために開放してもらえるように交渉してもらえないかな。」

「はい。わかりました。」

「ん。よろしくね。」

執行部員達が去っていく。

「あら。」

静流さんがこちらに気づく。

「あ、おはようございます。」

「どうしたの?おねーちゃん?なんか難しい話をしてたけど。」

「ん?別になんでもないの。ちょっと処理しなきゃいけない問題があったから早く来たんだけど。なんか色々とうまくいってないみたい。」

キーン、コーン、カーン、コーン

朝の予鈴が鳴り響く。

「あら、もう行かなきゃ。じゃあね。2人とも。」

静流さんは、笑顔を残してその場を後にする。

「じゃ、先輩。また後で。」

「うん。またね。」

おれも教室へ急ぐ。

(うん。今日も間に合った。)

先生はまだ来ていない。

「うぃーす。あいかわらずギリギリくんか。お前は。」

机にはりついたままの一夜だ。

黄泉塚一夜、こいつは入学以来のおれの悪友で、だるさが服を着て歩いているような奴だが頭は抜群に切れる。

「……いや、あいかわらずはお前の方だろ?」

「なにが?」

「その格好だ格好。少しはぴしっとしろよ、たまには。」

「またまた、ご冗談を。」

「そのうち皮膚と机が同化してもしらんぞ。」

「おー、いいな、それは。新種誕生、ってやつだ。」

「お前……あいかわらず妙な奴だな。」

「よく言われるな。それは。誉め言葉と受け取っておこう。むしろ変態と呼ばれた方が光栄だが。」

「なあ。」

「あぁ?」

「ひとつ聞いていいか?」

「却下する。」

「それだけやる気のないお前が、どうして遅刻しないんだ?」

「めんどくさいのだよ。」

「は?」

「だから、めんどくさいのだよ。遅刻しそうになると急がねばならん。急ぐのはめんどくさい。遅刻をすると教師といざこざをおこさねばならん。それもまためんどくさい。となると、最も面倒を避ける道は遅刻などしないことなのだよ。」

「……実はやる気があるんじゃないのか、お前?」

「プラスの極限とマイナスの極限はつながっているものだよ。君。」

ガラッ

教室のドアが開いて先生が入ってくる。

「ほーら。全員席に着く。」

こうして今日も学校生活が始まった。


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